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江戸小紋の工房見学

江戸小紋の工房見学に行ってまいりました!
 
 

真夏のように暑い7月の半ば、八王子にあります江戸小紋の工房見学へ行ってまいりました。
 
 
私が江戸小紋が大好きなので、今までもお店で染めの実演をしてもらったり、
染め屋さんにお店に来てもらい、江戸小紋の染めについての講演会をして頂いたりしたのですが
やっぱり、「百聞は一見にしかず」ということで、
今回は工房にお伺いして、じっくり染めの工程を拝見して、
さらには、自分で江戸小紋の型紙を使って袱紗を染めてみよう! と言うことになりました。



25名ほどの大人数でお伺いしましたため、
当日は見学会用に、普段の染め付けの仕事はストップして、
迎えていただけました。



まずは、八王子の駅に集合してから工房のそばの日本料理屋さんでお食事となりました。
 
いつもなら、「せっかくですから着物を着てゆきましょう!」となるのですが
近年にない猛暑の7月という事もあり、また工房内は閉めきりでかなり蒸し暑いようで、
見学の後にする染め付けの体験の時に、色糊を付けたりしてはいけないと
染め屋さんが大分心配して下さったため、今回は洋服の方がほとんどでした。

見学会用に、工房の窓などは開けて風を通して下さっていたのですが
工房の中は夏といえども加湿器がつかわれていて
本来なら、さらに窓や戸を締め切ってお仕事をするとのことでした。

あまりに暑い日でしたので、かえって皆さん思い出に残る見学会となったようでした。
 
普段お品だけを見ている江戸小紋ではありますが、
その工程をご覧頂くことで
あらためて手でするお仕事が、自然とお品の味になって現れてくることを
感じていただけたようでした。

江戸小紋の楽しさや精緻さを楽しんでいただけたのは勿論のこと、
「せっかくだから、持っているお着物をしっかり着よう・・」
そんな感想を頂けたのが、とっても嬉しい一日でした。 .

 
あらかじめ板に生地を張って途中まで染め付けをしてもらっておりましたので、
まずはその生地と共に沢山ある型紙のサンプルなどを拝見しました。



板に水気を与えてから、糊で生地を貼って、
動かないようにテープで生地の端を留めてゆきます。
何度も使っているうちに、糊が自然と板にしみついてゆきますので
板に霧吹きで水気をかけてやるだけで、ぺたぺたとした糊気が戻ってきます。
 
今日は参加者が多かったので、通常の染めのお仕事はお休みして、
見学会モードで準備して頂いた為、窓や戸も開けていただいてありましたが、
本来は閉めきってお仕事をするそうです。
江戸小紋は、型紙を使い米糠から作った糊を生地に置いてゆくのですが
その糊が地色からの防染の役目を果たし、地色の中に白い点々を残して柄になります。
 
糊が途中で乾いてしまうと、防染の役目を果たさなくなり
地色がかぶってきて綺麗に染められないため
常にある程度の湿度を保たなければなりません。
 
とても暑い日でしたが、
それでも工房の中には加湿器があり工場の中はかなり蒸し蒸しした状態でした。
 
「冬場や、窓を開けて風を通すと、乾燥しやすいのは分かるのですが、
 なぜ湿気っぽい夏にも加湿器を使うんですか?」 との、おひとりのご質問に、
「外の湿度が高くても、夏もこれだけ気温が上がると糊もどんどん乾いてしまうんです・・」とのお答え。
.
自然のままに染めることの大変さを、まず出だしから、
皆さん感じていたようです。


 
「じゃあ、型紙を使って糊をおくところを見てもらいましょうか」
水で湿らせてなじませた型紙を、前の染め付けた柄とうまく合わせながらピンで留め、
糊をおいてゆきます。
 

 
糊を型紙の端にとり、木のヘラでそれを上下に動かして型紙全体に糊をおいてゆきます。
見ていると本当に手際よく、気持ちが良いほどにさっさっとすすんでゆきます。
糊を置きおわって、型紙をさっと持ち上げると、柄の継ぎ目が全く分からないほどに綺麗に糊が置かれており
「すごーい!」なんて、皆さんびっくりされておりました。
 
一反の生地が約12メートル、型紙により巾が異なりますため柄を継ぐ回数も違ってまいりますが
50回から多いもので100回近く柄を継いで一反の江戸小紋に柄付けが出来るのです。
(それからまだ、蒸しや、色合わせ、しごき、補正・・と言った工程が続きます。)
 

 
「あなたも、ちょっとやってごらん・・」なんて言っていただいて
おひとりの方が、実際に生地に染めてみました。
 
袱紗の染め付け体験はする予定だったのですが、いきなり本物の生地に染めさせてもらうことになって
さっき見ていた職人さんのようには、手が動かず、苦心しながらの糊置きでしたが
貴重な経験となり、今回の見学の良い思い出となったことと思います。
 

 
糊を置きおわった型紙は、糊が着いたまま残らないように水で洗います。
柿渋で耐水性を高めているとはいえ、元は和紙の型紙を水で洗ったりするのですから
しぜんと型紙も傷んできます。
 
染める技術もさることながら、型紙を彫る技術も現在貴重なものとなってきています。
 
わざと透き間を空けて、ずらして糊を置いてもらったのですが
赤丸を付けたところにあるちょっと目立つ点が「星」と呼ばれ、
型紙の両端に柄に混じって彫られています。
 

 
型紙の両端のこの「星」を合わせながら型紙を生地に置くことによって、
柄がずれる事なくきちっとつながって行くのです。
 
(こうして書くと、簡単そうに思われるでしょう。
 その簡単そうに見えることがいかに難しいか、
 一反柄を付けおわるまできちっとそれを続けること、
 そんな手仕事の、奥深さを今回は感じて頂けたようです。)
 

 
きちっと継いで置かれた柄です。
型紙の継ぎ目が分かりますか?
 

 
1反の生地の長さは約12メートル、生地を張る板の長さはその半分くらいですので
板の片側の端は削られてとんがっており、
半分糊置きされた生地は残りを染めるために、反対側に引き替えされます。
 
糊置きのおわった板は、天井からのフックにかけられて置かれます。
板が反ったり曲がったりすると綺麗に染まらないため、厚みも大分あるその板を
一日何回も頭より上に持ち上げなければならないんです。
(写真の板の下に皆さんのお顔があるのが分かりますか?)
 

 
工房の上には、染められた生地の張られた板が並んでいます。
 

 
先ほどの柄よりずっと細かい、菊の模様の江戸小紋です。
この柄は、型紙が伝統工芸展で賞を取ったというこの染め屋さんの自慢の型です。
 

 
型紙を使っての糊置きに使う糊です。
白い生地においたときに柄が分かるように、わざと色を付けてあります。
 

 
小紋の染め付けには、先ほどのように渋紙を使った手彫りの型を使う以外にも
上の写真のような、スチールの枠にビニールのフィルムを使った型もあります。
 
極と呼ばれる細かい柄は、手彫りの型を手で染め付けないと染めることが出来ませんし、
染め上がりの雰囲気も、手彫りの型紙の方がもちろん味があって素敵です。
 
フィルムの型の方は、その分お値段もおやすく出来るようになっております。
 
「味わいの手染めがやっぱり良い」という方もいるでしょうし、
 お茶のお稽古などでしょっちゅうお召しになる方は
 汚れの心配なども考え、「手軽なお品がよい」と言う方もおいでと思います。
 
どちらの方が良いというのではなく、それぞれの型の着方のスタイルに合わせて
ご自分なりに、よく考えてお品をお作りになるのが一番です。
 

糊を置いた生地には、今度は「しごき」という染め方で地の色を染めてゆきます。
 

 
着物の地色の染め方には、刷毛を使って染める引き染めという方法もありますが
江戸小紋の場合には、染料を混ぜた色糊を生地の上から置いてゆき地色を染める
「しごき」と呼ばれる染め方をします。
.
色糊を使うため、染料自体は生地の奥まで浸透せず生地の表面に乗った格好となりますため
江戸小紋は表が柄が染まっていても、生地の裏は白いまま残っていたりするのです。
単衣でお召しになったりと、裏が白くて気になるときには、裏は裏で色を染めたりも致します。
 
  
 
沢山の染料を合わせながら、地色を染めるための色糊を作ってゆきます。
刷毛で染める染め方ならば、染料を直接、刷毛に付けて小さな布で試し染めを出来るのですが
「しごき」染めの場合は、染料自体の色と、実際に色糊にして染めたときの上がりの色は
自然と異なってきます。
 
そのため、「この色の染料で色糊を作り、生地に染めるとこの地色に仕上がる」、
この色の感覚は、職人さんの経験と色合わせのセンスとなってきます。
見本を用意して、「まるっきり同じ色を」というのは、そういう意味では大変難しいのですが
繊細な色合いの組み合わせから染め上がってきた色は、
見本とは微妙に異なりながらもやっぱり良い色なのです。
 
また、真ん中の写真に、紙に張られた江戸小紋の色見本が移っていますが
生地端の地色と、実際の柄の部分は同じ地色ながらずいぶんと雰囲気が異なります。
白の目と相まって出てくる江戸小紋こその雰囲気でもありますし、
同じ地色でも柄によって白場が違ってきますので、染め上がりの色の雰囲気も変わります。
 
こうして現れてくる色目によって、帯次第で着る幅が大変広くなる江戸小紋の楽しさは
より深いものになっていることと思います。
 

 
糊を置いた生地に、細かい大鋸屑をかけてゆく機械です。
色糊を置かれた江戸小紋は、次に説明する「蒸し」という工程で、箱の中で蒸気に当てられます。
このとき小さく折り畳んでゆくために、反対側の生地に糊が着いて後でムラにならないように
こうした工程を経てゆきます。
 
 
 
手前の箱に、生地同士がくっつかないように、出っ張った針に生地を引っかけながら張ってゆき、
奥の蒸し箱に入れて蒸気を当てます。
蒸気を当てることで熱が加わり、染料の中のタンパク質が固まり、染料が生地に定着するのです。
色合いや生地の具合などによっても、蒸しの温度や時間も異なってきますので
そこら辺は経験と熟練の要するところです。
 

 
上の写真は、今日は水が張ってありませんが、ここに水を流して川のような水槽を作り、
染めて、蒸しをかけた生地を洗う「水洗い」の工程を行います。
ここで生地の糊気をすべて落とすと、地色に白い細かい目で柄の現れるあの江戸小紋が登場するのです。

 

いよいよ、最後の工程です。
こうして染め上がってきた江戸小紋には、どんなに丁寧に工程を進めていっても
微妙な型継ぎや染ムラなどが必ず残ってきます。
そこで補正と呼ばれる作業で、それを綺麗にして一反の江戸小紋が完成します。
補正と言っても、後から柄を描くことは出来ませんので
地色と共に近い淡い色を少しずつその箇所に差しながら、目立たなくさせます。
 
こうして言葉では書きますが、実際に拝見していると、
どうしているのか分からないうちに、自然と型継ぎが消えて分からなくなってきます。
 
重ねる色の色合わせや、さし加減など、やはりすべて経験から来るもの・・・ とうかがい、
最初の糊置きから、最後の補正に至まで、すべて熟練の手作業によって
いざ着物姿にお召しになったときに、素敵に映える江戸小紋が出来上がることを
あらためて皆さんに感じて頂けたようです。


いよいよお楽しみの、袱紗の染め付け体験となりました。
 

 
当初は、柄は一種類との予定だったのですが
6つの柄の型紙を用意して下さっていて、それぞれお好きな2柄を選んで、糊置きとなりました。
 
さっきまで見ていたように、さっさっと染められるだろうなんて思いながら、
皆さん頑張って糊置きをしておいででした。
一枚の板に張った生地に、4人づつ付いて何回かに分けて皆さんに染めていただいたのですが
柄を選んだり、他の人の型付けを見て勉強したり、真剣な面もちで皆さん臨んでいました。
 


生地を板に張って


 型紙を合わせて

糊を置くと 

はい、出来上がり?!


あいた時間には、染め上がりの江戸小紋の生地などを見たりと
皆さん一日中楽しんで頂けたことと思います。
見本の袱紗はこんな雰囲気でしたが、
皆さんの袱紗もこれから染め上がってきますのでお楽しみです!
 

 
同じお品をごらんになるのでも、実際の工程や手の仕事をご覧頂くことで
見る想いが変わったり、愛着を持っていただくことが出来れば嬉しい限りです。
 
江戸小紋の楽しさや精緻さを楽しんでいただけたのは勿論のこと、
「せっかくだから、持っているお着物をしっかり着よう・・」
そんな感想を頂けたのが、私共にとっても嬉しい一日でした。

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